現在のがん治療では、がん自体の治療はもちろんのこと、がんによる痛みを緩和することも非常に重要視されています。痛みを緩和する事は、患者の全身状態をよりよく保つ上で必要不可欠であり、患者のQOL向上に大きく貢献します。一般的に行われているがん性疼痛の治療法には以下のものがあります。
現在、鎮痛薬は安全で効果的なものが開発されており、がん性疼痛の治療法としては最も手軽で広く使われています。また、鎮痛薬の効果を高めるために、鎮痛補助薬を併用する事もあります。鎮痛薬は麻薬性(オピオイド系)と非麻薬性(非オピオイド系)に大別されています。
麻薬性(オピオイド系)鎮痛薬とは、体内に存在する鎮痛作用に関与するオピオイド受容体と結びついて痛みの感覚を鈍らせ、痛みを抑える鎮痛薬です。現在日本で使用されている麻薬性鎮痛薬の中で最も強力な鎮痛薬は「モルヒネ」です。モルヒネは麻薬として有名ですが、適性使用する事で依存症の心配なく、安全に使用することが可能です。
モルヒネを使用する事で、がん性疼痛を訴える患者の80%近くを痛みから解放するといわれています。ただし、モルヒネを使用すると吐き気や眠気などの副作用が出ることがあるため、多くの場合で少量から使用を開始します。そのため、鎮痛効果を発揮するのに1週間〜10日くらいかかることもあります。
非麻薬性鎮痛薬は麻薬性鎮痛薬に比べると鎮痛効果が小さいため、軽度から中程度の鎮痛に使用されています。代表的なものにアスピリンやアセトアミノフェンなどがあり、解熱鎮痛薬として市販されている薬にも使用されています。また、がんの骨転移や関節痛などの痛みには非ステロイド性消炎鎮痛薬が有効であり、麻薬性鎮痛薬と併用する事で鎮痛効果が増す事もあります。
このほか、鎮痛薬だけで効果が得られにくい場合には、他の薬を補助的に使用することがあります。鎮痛補助薬として使用される薬には、抗うつ薬や抗けいれん薬、ステロイド薬などがあります。
また、鎮痛薬を使用する事で強い鎮痛効果が得られる反面、副作用を引き起こす事もあります。そのため、この副作用を予防するための薬を使用する事もあります。
神経ブロックとは、痛みを脳に伝える神経の伝達をブロックし、痛みを感じなくさせる治療法です。神経をブロックする方法には、一時的に神経の伝達を遮断するために麻酔薬を使用する場合と、半永久的に神経の伝達を遮断するために神経を破壊する薬を使用する場合があります。
ただし、神経ブロックはすべての痛みを遮断できるわけではなく、適応する痛みは限られています。特にがんによる痛みの原因や広がり方は複雑であるため、神経ブロックだけで痛みを完全に抑えられないこともあります。そのような場合には、鎮痛薬を併用して痛みを緩和します。
神経ブロックには内臓神経ブロック、くも膜下ブロック、硬膜外ブロックなどがあり、いずれも注射にて神経周辺に直接薬を注入します。内臓神経ブロックはすい臓の後ろにある腹腔神経叢(そう)の付近に薬を注入する治療法で、すい臓がんや胃がんなど内臓に広がったがんの鎮痛に効果を発揮します。
くも膜下ブロックは脊髄を覆っているくも膜の下に薬を注入する治療法で、主に身体を動かした時に感じる痛みに効果を発揮します。硬膜外ブロックは脊髄を覆っている硬膜と脊椎の間にある空間に薬を注入する治療法で、脊髄が支配する領域の鎮痛に効果を発揮します。