がん患者は少なからず身体的な痛みを感じており、癌が進行するほどに痛みも強くなっていきます。がん患者が抱える苦痛と痛みの原因には何があるのでしょうか?
がんによる苦痛といえば「痛み」を想像しますが、苦痛はそれだけではありません。がんによる苦痛はがんの発生部位によって多少異なりますが、がん患部およびその周辺の痛みのほか、全身倦怠感、食欲不振、不眠、呼吸困難など、さまざまな症状が現れるようになります。
また、がんの苦痛には身体の苦痛だけではなく、精神的、心理的な苦痛も大きく関わっています。
がんの闘病生活が長く続くほど、患者には死への恐怖や不安がのしかかるため、精神的・心理的苦痛を抱えるようになります。この精神的苦痛と身体的苦痛は密接に関係しており、身体的苦痛が増すと精神的苦痛も増し、精神的苦痛が増すと身体的苦痛も増すという悪循環が起こります。
このほか、長期闘病生活によって社会生活から離れてしまうことによる苦痛や、経済的問題、家族の問題などによる苦痛なども複雑に絡み合うため、がんの苦痛は「全人的苦痛(トータルペイン)」と呼ばれています。
そのため、がん患者の苦痛を和らげるには単に身体的苦痛を緩和するだけでなく、さまざまな精神的・心理的苦痛を受け止め、和らげる必要があります。このような全人的苦痛に対して行われるケアを「緩和ケア(パリアティブ・ケア)」といいます。
がん患者の身体には多くの場合で痛みが起こるようになります。痛みにはさまざまな原因がありますが、最も多いのががん患部に起こる「がん性疼痛」です。がんが発生すると、なぜ痛みが起こるのでしょうか。
がんが小さいうちは症状が現れにくいのですが、がんは進行すると、がんの病巣が大きくなったり、硬くなったりして周囲の組織を刺激するようになります。身体の組織にはさまざまな刺激を感じる受容体が存在しており、その受容体になんらかの刺激が加わると、脳が「痛い」と感じるようになります。
その刺激が強くなるほど、脳が感じる「痛み」の強さも増していきます。当然、がんの周辺組織にも痛みを感じる受容体が存在しているため、がんが進行して周囲を刺激するほど痛みも強くなっていきます。これが「がん性疼痛」の原因です。
癌の痛みを感じる受容体は、内臓を取り囲む腹膜や胸膜、筋肉を取り囲む筋膜、骨の表面を覆う骨膜などに集中しているため、がんが末期になるほど、多くの痛みを発生させるようになります。
がん患者の痛みに関する調査では、がんの早期でも30%の患者に痛みが起こっており、末期がんになると70%以上の患者に継続的な強い痛みが起こっているといわれています。さらに末期がんの患者では、50%に強い痛みが、30%に耐え難い痛みが起こっているといわれています。
このような「がん性疼痛」は不眠や食欲不振などを招くほか、精神的、心理的苦痛をも悪化させてしまいます。そのため、がんの治療ではがん自体の治療はもちろんのこと、痛みの除去も非常に重要なポイントとなります。現在では安全で効果的な鎮痛薬が開発されているため、疼痛治療を適正に行えば、がんによる痛みをコントロールすることができます。