膵臓癌は癌の発生場所によって切除範囲が異なり、多くの場合で周辺の臓器をつなぎ合わせるなどの再建手術が必要となります。また、消化液を分泌する膵臓を切除することで消化液が縫合部から漏れる障害を起こすこともあります。
すい臓がん手術の代表といえる「膵頭十二指腸切除術」は、すい臓を取り巻く周囲の臓器を切除して取り除き、まったく異なる臓器同士(膵臓と小腸など)をつなぎ合わせるという手術です。
そのため、体にとても大きな負担となるほか、消化管同士をつなぎ合わせるため、消化液が漏れたり、消化管自体が消化液で障害を受けるなど、40〜50%の高い確率で合併症を引き起こします。以下は、膵頭十二指腸切除術後に起こりえる合併症の代表例です。
消化管や臓器の縫合不全による合併症
すい臓がんの切除後、胃や十二指腸、膵臓、胆管同士を縫合してつなげるわけですが、縫合(ほうごう)部であるつなぎ目から消化液が漏れ出てしまうことがあります。これを縫合不全と呼びます。異なる臓器同士をつなぎ合わせるため、つなぎ目部分の治りも決してよくありません。
膵臓は膵液と呼ばれる脂肪やたんぱく質を分解する消化液を分泌しているため、膵臓内には太い主膵管のほか細い分枝膵管が通っています。切除後の膵臓と空腸をつなげる際、主膵管と空腸をうまくつなげることができても、むき出しになっている分枝膵管から膵液が漏れてしまうこともあります。これを「膵液瘻(すいえきろう)」と呼びます。また、胆管空腸吻合部の縫合不全が発生した場合には、胆管内を流れる胆汁が漏れ出てしまいます。
膵液は本体タンパク質や脂肪を分解する作用があるため、膵液が漏れ出てしまうと縫合部の組織が障害を受け、出血等の原因となります。そのため、消化液が漏れ出て障害を起こさないよう、予防的措置としてドレーンと呼ばれるゴム管を手術中にお腹の中に入れておきます。
術後に縫合不全が起きてしまったとしても、漏れ出た消化液をドレーンを使って体外に排出したり、縫合不全部の洗浄を行うこともできます。
しかし、ドレーンを使っても消化液排出がうまくできなかった場合は、消化液によって膿瘍(膿がたまったもの)ができたり、縫合不全部から出血することがあります。その場合には再手術などによってドレーンを設置し直す必要があります。膵頭十二指腸切除術は多くの消化管や臓器を切除し、消化管を吻合することが不可欠のため、いかに縫合不全を起こさないかが術後回復のポイントとなります。
腹腔内出血
膵頭十二指腸切除術では多くの臓器や消化管を切除する事により、その周囲を走る太い血管や、切断した血管の切断面がむき出しになってしまいます。
適切に縫合されていれば問題ありませんが、前述のような縫合不全や腹腔内の膿瘍が起こると血管がダメージを受け、腹腔内で出血を起こしてしまうことがあります。
膵頭十二指腸切除術で腹腔内出血を起こす割合は1割に満たないくらいとされていますが、実際に出血が起きた場合は比較的高い致死率となっており、腹腔内出血は生死にかかわる重篤な手術後合併症といえます。
胃排泄遅延と消化不良
膵頭十二指腸切除術はその術式により胃の切除範囲は異なりますが、いずれの場合も少なからず胃がダメージを受けるために胃の動きが悪くなり、食べ物や胃液が長い間胃の中にとどまってしまうことがあります。この状態を胃排泄遅延といいます。
術後の回復とともに胃排泄遅延も自然とよくなっていきますが、それまでの間は食事を摂ることができず、細いチューブを鼻から入れて胃内にたまった胃液を取り除く必要があります。
また、すい臓を切除することにより、すい臓で作られている膵液の分泌量が低下します。膵液はタンパク質や脂肪を分解する消化液であるため、分泌量が低下することにより消化吸収能が低下し、下痢や脂肪便などの症状が現れる事があります。
尾側膵切除術は消化管の切除を伴わず、消化管や臓器の吻合がないため、膵頭十二指腸切除術のような縫合不全の心配はありませんが、すい臓を切除し、すい臓の断面がむき出しになるため、すい臓内で作られる膵液が高い確率で腹腔内に漏れ出てしまいます。
膵液はタンパク質や脂肪を分解する強力な消化液であるため、漏れ出た部分の組織が消化液によってダメージを受け、膿瘍が発生することがあります。また、すい臓周辺には太い血管も走っているため、血管がダメージを受けると大出血につながります。
対処法としては膵頭十二指腸切除術と同様、ドレーンと呼ばれるチューブを手術中に腹腔内や膵臓切断面付近に留置し、漏れ出た膵液を吸引する方法がとられます。尾側膵切除術後に起こり得る合併症は、膿瘍による炎症や腹腔内出血、消化不良など、基本的には膵頭十二指腸切除術と同じです。