膵臓癌は初期症状が乏しく、発見時には手術できない進行癌の状態であることが少なくありません。膵臓癌を少しでも早期に発見できるよう、膵臓癌の検査方法について知っておきましょう。
膵臓癌の検査は現在抱えている病気や病歴、症状などを考慮し、まず第一段階として血液検査による生化学検査や腫瘍マーカー検査、腹部超音波検査(エコー検査)などを行います。
これら3つの検査は患者に負担を与えることなく、簡単に行えるものです。血液検査では血液中の酵素濃度を測定することによって、すい臓の機能が正常かを調べるほか、腫瘍マーカーと呼ばれる癌が発生すると上昇しやすい物質の濃度を測定し、癌の有無を確認します。
超音波検査は体の外から超音波を当て、その反響を画像化して膵臓の状態を調べる検査です。画像が不鮮明であるため微小な癌を発見することは困難ですが、主膵管の拡張や嚢胞の有無など、膵臓癌が疑われる所見を確認することができます。
これらの結果を踏まえ、膵臓に異常があると疑われた場合は、精密検査としてCTやMRI、EUSなどのより高度な検査を行います。
膵臓癌が疑われる時は、まず始めに血液検査を行います。血液中のビリルビン量を測定して黄疸の有無を調べるとともに、膵臓から分泌される酵素のアミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1などが正常値かどうかを調べます。
膵臓は炭水化物や脂肪、たんぱく質を分解するために、様々な酵素を分泌しています。膵臓にできた癌腫瘍によって膵管が圧迫されると、酵素を含む膵液の流れが悪くなるために血液中の膵酵素の濃度が高くなります。血液検査でこの酵素の濃度を測定することによって、膵臓の異常の有無を確認することができます。
膵酵素の異常はすい臓の疾患全体で見られるため、これだけですい臓がんを断定する事はできませんが、手がかりの1つとなります。
また、癌腫瘍によって胆管が圧迫され狭窄した場合には、ビリルビンや胆道系酵素であるALP、LAP、γGTPの上昇のほか、肝機能障害によってAST、ALTの上昇が見られます。
腫瘍マーカーとは、癌細胞が作り出す特定のタンパク質や酵素、ホルモンなどのことで、健康な時には血液中にほとんど存在しませんが、癌になると異常な値を示すようになります。そのため、これらの物質は「癌の目印」という意味で腫瘍マーカーと呼ばれています。
腫瘍マーカーは特定の臓器がんで高い確率で現れるものもありますが、その多くは複数の臓器でつくられています。また、がん以外の病気でも上昇することもあるため(偽陽性)、腫瘍マーカーが高いからといって癌の断定は行えません。また、早期の癌では腫瘍マーカーの上昇を認められないことが多く、膵臓癌の早期診断には用いる事ができません、
しかしながら、癌の有無や進行状況を知る上で1つの手がかりになるほか、血液を採取するだけで調べられるため、腫瘍マーカー検査は患者負担が少ない検査の1つです。すい臓がんの診断で用いられる腫瘍マーカーには、CA19-9、CEA、Dupan-2、Span-1などがあります。
腫瘍マーカー | 基準値 |
---|---|
CA19-9 | 37.0U/mL以下 |
CEA | 5.0ng/mL以下 |
Dupan-2 | 150U/mL以下 |
Span-1 | 30U/mL以下 |
腫瘍マーカーが異常値を示す割合(陽性率)は、CA19-9で70〜80%、CEAで30〜60%、Dupan-2で50〜60%、Span-1で70〜80%とされています。
進行癌でない場合(腫瘍が小さい場合)は陽性率が低くなることから、膵臓癌の早期診断に腫瘍マーカーを用いる事は難しいのですが、手術後の再発確認や、抗がん剤治療の効果を確認するためには有用な検査と言えます。
超音波検査は超音波を体に当て、その反響を画像化する検査法です。手軽に行えるために健康診断でも用いられており、超音波検査よりもエコー検査という呼び名の方が馴染みがあるかもしれません。
体の外から調べることができるので、体に負担のかからないのが特徴です。腹痛や背部痛、黄疸など具体的な症状が現れている場合には、超音波検査を行います。
これらの症状は消化器のさまざまな病気で起こるため、ここでは病気を断定せず、消化器全体を調べます。
すい臓に癌腫瘍がある場合は、黒っぽい腫瘤像として画面に映し出されます。すい臓の中を通る主膵管が拡張していたり、小のう胞(液体の入った袋状のもの)が見えたり、すい臓周囲が不整に見えたりした場合には癌の可能性が高いと診断されます。
ただし、超音波検査から得られる画像は鮮明ではなく、腹部にガスがたまっていたり、皮下脂肪が多かったりすると、見えにくかったりする欠点があります。そのため、早期の小さな癌を超音波検査で発見することは難しいと言えます。
超音波検査や腫瘍マーカーで膵臓癌が疑われる場合には、CTでさらに詳しく調べます。CTとは体にX線を当てて体の断層写真(輪切り状のもの)を撮影するものです。体の外からではわからない体の内部を鮮明に映し出す事ができます。
CTではすい臓がんの大きさや広がりなどがわかりますが、最近ではより詳しく調べるために造影CTが行われています。これは造影剤を静脈注射し、患部をより鮮明に映し出すもので、これにより周辺臓器への転移やリンパ節転移などを調べることができます。
超音波検査やCTでも診断を下すのが難しい場合には、MRIを応用したMRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影法)やERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影法)、EUS(超音波内視鏡検査)などが行われます。
MRCPは造影剤を使わずに膵管や胆管を映し出すことができる装置で、造影剤によるアレルギーの副作用の心配がありません。膵臓癌は膵管や胆管に異常が出る事が多いため、MRCPを行うことでCT等の診断の補助をすることができます。
ERCPは十二指腸まで内視鏡を入れ、膵管に造影剤を直接注入してX線撮影する検査法です。膵臓癌の多くは膵管上皮から発生するため、膵管や胆管を造影することで、癌腫瘍による閉塞や狭窄、膵管外への造影剤の染み出しなどの異常を見つける事ができます。また、最近では膵管内に細い内視鏡を入れて細胞を採取することもできるようになりました。採取した細胞を検査する事で悪性細胞か良性細胞かを調べる事もでき、早期がんの診断に重要な検査です。
EUSは内視鏡を胃まで入れ、そこから超音波を発して膵臓の観察を行う検査です。消化管内のガスの影響を受けることなく実施することができ、2cm以下の小さな膵臓癌を映し出す事もできます。
生検とは、癌が疑われる組織の一部を針などの器具を使って採取し、病理医が顕微鏡で採取した細胞を調べる検査です。画像検査と違い、細胞の状態を直接調べる事ができるため、多くの癌で確定診断に用いられています。
胃がんや大腸がんなどの消化器がんでは、内視鏡で癌腫瘍を確認したのちに内視鏡下で組織を採取し、顕微鏡を使って癌細胞を直接観察して癌かどうかの確定診断をすることができます。
しかし、膵臓癌は内視鏡などで腫瘍を直接観察することができないため、画像検査の結果から総合的に判断して確定診断を行っていました。また、膵臓癌の生検を行うとした場合、以前は体外から針を刺して細胞を採取していましたが、陽性率は45〜100%と癌の大きさや位置によってばらつきがありました。
現在はEUS(超音波内視鏡)を消化管内に入れ、超音波で膵臓の様子を観察しながら穿刺針を刺して細胞の採取を行えるようになりました。この検査はEUS−FNA(EUSガイド下穿刺吸引細胞診)と呼ばれており、現在膵臓癌に対する最も有効な生検となっています。