内視鏡手術(腹腔鏡下)は傷口が小さいために患者負担が少ない治療法ですが、膵臓癌ではまだ症例数が少ないのが現状です。膵臓癌における腹腔鏡下手術がどのような治療か知っておきましょう。
内視鏡手術の1つに腹腔鏡下手術があります。腹腔鏡下手術とは腹部に小さな穴をあけ、そこから器具を挿入して行う術式です。腹腔鏡下手術の最大の特徴は腹部を切開しない事であり、傷口が小さいために術中の出血量も少なく、入院期間も短いというメリットがあります。
また、細い血管の縫合などの細かな作業も、カメラで拡大し画面で確認しながら行うことができるため、正確に作業を行うことができます。
腹腔鏡下手術を始める前に、まず腹部に5〜6個の穴をあける必要があります。1つは内視鏡を入れる直径1.5cm程度の穴であり、残りは先端がメスやハサミになっている鉗子を入れる直径0.5cm程度の穴となります。
また、腹腔内は臓器で詰まっているため、視野と作業スペースを確保するため、腹腔内に二酸化炭素を注入して腹腔内を膨らませます。この二酸化炭素の圧力によって、術中の少量の出血はとまりやすくなります。
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開腹して行うのと違い、腹腔鏡下手術は傷口が小さいために回復が早く、問題なければ手術の次の日には歩くことができます。術後に動けない時間が長くなるほど肺塞栓や腸閉塞などの合併症のリスクが高くなりますが、術後に早く歩けるようになることで合併症のリスクも少なくなります。
ただし、腹腔鏡下手術は患者にメリットがある反面、医師には非常に高度な技術が求められます。腹腔鏡下では術野が二次元の画面で映る部分のみであるため、器具と対象物の距離感がとりにくく、鉗子も自分の手のように滑らかに動かすことは困難です。
そのため、腹腔鏡下手術を行う医師は多くのトレーニングを積んで熟練する必要があり、患者も症例数の多い病院を選択する必要があります。
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患者にとってメリットの多い腹腔鏡下手術ですが、膵臓癌に適応するのは容易ではありません。2013年に日本で行われた腹腔鏡下消化器手術は約8万件ほどですが、そのうち膵臓は約600件程度であり1%にも満たない状況です。
また、2015年までの累積症例数も腹腔鏡下大腸切除が約10万例であるのに対し、膵切除は約2500例であり、症例数は非常に少ないといえます。
すい臓は多くの臓器や主要な血管に囲まれており、癌が血管に浸潤していることも少なくありません。そのため、膵頭十二指腸切除術は困難な術式であり、腹腔鏡で行うのは非常に高度な技術を要します。このような理由から、膵臓癌の腹腔鏡下手術は比較的切除のしやすい腹腔鏡下膵体尾部切除術が多くを占めています。
なお、腹腔鏡下膵体尾部切除術は2012年に保険適応となりましたが、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術はいまだ保険適応となっていませんので、先進医療として高額な治療費がかかります。
膵臓癌への腹腔鏡下手術は、開腹に比べて時間はかかるものの出血量が少なく、合併症や感染症の発生率が低いという報告があります。ただし、腹腔鏡下手術は開腹に比べて狭い視野で行うため、周囲の血管を傷つけて予期せぬ出血を起こし、損傷の程度によってはそれが原因で死亡することもあります。
そのため、術中に腹腔鏡で進める事が困難となり開腹に移行することもあります。膵臓癌の腹腔鏡下手術は他の消化器系癌に比べると、その割合は高い傾向にあります。
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