現在、膵臓癌の根治が期待できる治療法は手術療法だけですが、膵臓癌の手術を行うには他臓器への転移がないことが条件となります。しかし、膵臓癌は早期発見が難しく、患者の8割が転移を伴う進行癌の状態で発見されるのが現状です。膵臓癌の手術は癌の発生部位によって術式が異なります。
膵臓癌の手術は、がんの進行度合いによっていくつかの方法があります。すい臓は胃や十二指腸のほか、胆管や肝動脈、門脈などに囲まれているため、すい臓を摘出する際には周囲の各臓器の再建も必要になります。そのため、摘出範囲によってはかなり大がかりで時間のかかる手術となります。
膵臓癌の中で最も多い膵頭部がんの場合、「膵頭十二指腸切除術」または「全胃温存膵頭十二指腸切除術」が行われます。膵体部や膵尾部の場合は再建が必要な臓器はありませんが、膵尾部は脾臓とつながっているため、脾臓を摘出する必要があります。
すい臓は多くの臓器やリンパ節、血管等に囲まれているため、すい臓に癌が発生すると周辺の組織に容易に転移してしまいます。
癌の外科的手術を行う場合、大切なことは癌を取り残さないことです。そのため、膵臓癌における過去の外科的手術では周辺組織への転移の有無に関わらず、予防的な観点からすい臓周辺の組織も摘出する「拡大手術」が行われてきました。
しかし、その後の臨床試験によって拡大手術をする場合としない場合で術後の予後に差はなく、むしろ拡大手術を行った方が合併症を起こしてQOLが低下することがわかりました。そのため、現在では拡大手術を行わず、術後に補助的化学療法を行って再発を抑える治療が行われています。
「膵頭十二指腸切除術」は膵臓の頭部、十二指腸の全部、胃の一部、胆のう、胆管などを取り除くもので、残った膵臓を小腸につないて膵液が小腸に流れ込むようにします(図1)。
この術式は胃の一部を切除しなければならないのですが、がんの進行があまり進んでいなければ胃をすべて残す「幽門輪温存膵頭十二指腸切除術」(図2)や、胃の幽門のすぐ上で切除し胃をほとんど残す「亜全胃温存膵頭十二指腸切除術」(図3)が選択されます。
これらの術式は膵臓の頭部、周囲のリンパ節、臓器などを最小限の範囲で切除するもので、胃をそのまま残すことができ、術後の生活の質を落とさずに済みます。最近は胃を切除する術式ではなく、これらの胃を温存する術式が多く行われています。
膵体部や膵尾部に癌ができている場合は、「尾側膵切除術」(図4)が行われます。これはがんのできた膵体部や膵尾部だけでなく、隣接する脾臓も摘出する術式なのですが、膵頭部を残すので膵液が問題なく十二指腸に流れる事ができます。この術式の場合、「膵頭十二指腸切除術」のように胃や十二指腸、胆管などを切除しないため、臓器の再建も必要ありません。
癌がすでにすい臓全体に広がっている場合には、すい臓すべてを摘出する「膵全摘術」(図5)という手術が行われることがあります。この手術はすい臓だけでなく、周囲の胃や腸の一部、胆のう、脾臓、リンパ節なども摘出しなければならず、すい臓を失うことで消化酵素やホルモンを分泌する機能が失われます。そのため、手術後の生活では消化酵素薬やインスリン注射が必要になります。
膵臓癌の手術は高い技術を必要とし、非常に難易度が高いと言えます。また、成功したとしても術後の管理がきちんとされなければ、恐ろしい合併症を引き起こす危険性もあります。そのため、すい臓の手術を受ける場合は、すい臓の専門医がいて数多くの手術を行っている医療機関を受診する事をお勧めします。
膵臓癌がかなり進行し、手術しても完治が望めない場合には、その後の生活の質(QOL:quality of life)を向上させるための手術が行われる場合もあります。
膵臓癌が進行すると、がん細胞が胆管や消化管を圧迫して閉塞性黄疸や消化管閉塞を引き起こす事があります。その場合には胆管と小腸、胃と小腸、小腸と小腸などをつないでバイパスを作ることがあります。これにより、黄疸が改善したり、食事が摂れるようになったりするなどの改善が見られるようになります。
また、癌が進行して激しい痛みを伴う場合には、痛みを伝える神経を切除したり、薬を注射して神経の緊張を解き、痛みを和らげたりします。これらの治療はすべてすい臓がんの治療ではなく、患者さんの生活をよりよくするために行われるものです。