膵臓は体のどこにあるかも、その働きもあまりよく知られていない臓器ですが、私たちの生命維持に欠かせない非常に大切な役割を果たしています。膵臓がどのような役割を担っているのか知っておきましょう。
「膵臓(すいぞう)」という臓器の名前は誰しも1度は聞いたことがあると思いますが、膵臓が体のどこにあって、どんな役割を担っているのかはあまり知られていません。
膵臓はみぞおちから少し下がったあたりの、ちょうど胃の裏側に左右に横たわるようにあります。大きさは長さ15〜20cm、幅3〜4cm、厚み2cmくらいの大きさで、重さは120g程度です。
膵臓は肝臓や胃腸など、他の臓器に比べると比較的小さな臓器であり、左右に細長い形をしています。胃と背骨(腰椎)に挟まれるように存在しているため、画像検査では膵臓の形を映し出すことができますが、体の外から触診で膵臓の病気を発見するのは難しいといえます。
膵臓の色は淡黄色をしており、トウモロコシを横にしたような形に似ています。膵臓は太いほうから、膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれており、膵頭部の一部は下図からもわかるように鉤(かぎ)状に突出しています。そのため、この部位は「鉤部(こうぶ)」と呼ばれています。膵頭部は十二指腸と、膵尾部は脾臓と接しています。
膵臓の中には膵液が流れる膵管や、肝臓で作られた胆汁が流れる胆管が走っており、これらはいずれも十二指腸の乳頭と呼ばれる部分から十二指腸内に排出されます。
膵臓は胃や十二指腸、脾臓など多くの臓器に囲まれている臓器ですが、それ以外にも腹腔動脈や上腸間膜動脈、門脈、上腸間膜静脈といった非常に重要な太い血管にも近接しています。そのため、膵臓癌などによって膵臓を摘出する場合には、周辺臓器の再建などが必要になります。
膵臓の働きを大きく分けると、以下の3つの重要な役割があります。
@ 食物の消化
A 胃酸の中和
B 血糖値の調節
膵臓には消化酵素を分泌する外分泌機能とホルモンを分泌する内分泌機能があり、@Aは外分泌機能が、Bは内分泌機能が担っています。
膵臓の働き@ 外分泌機能
膵臓は炭水化物、タンパク質、脂質を分解できる消化液を十二指腸に分泌しており、食べ物の消化に大きく関わっています。この働きを食べ物の消化・吸収の流れにそって見ていきましょう。
食べ物は口から入ると、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸の順に進んでいきます。まず、口に入った食べ物は歯で噛み砕かれて細かくなり、唾液と混ざり合います。次に食道を通って胃へ送られ、タンパク質消化酵素と強力な胃酸で消化が行われます。胃で3〜6時間消化されると、食べ物は粥状になります。この状態になると、食べ物は十二指腸に送られます。
ここで気になるのは、強力な胃酸を含む食べ物が十二指腸に流れ込む事です。胃の中は粘膜で覆われており、強力な胃酸から守られるように作られていますが、十二指腸はそうではありません。そのため、十二指腸の粘膜は胃酸による損傷を受けやすく、潰瘍が起こりやすいという特徴があります。
この強力な胃酸を中和するのが、膵臓から分泌される膵液です。膵液は弱アルカリ性であり、食べ物が十二指腸に入ってくるとすぐに分泌して中和する仕組みになっています。
この膵液によって十二指腸は守られているわけですが、膵臓に問題が起こり膵液が正しく分泌されなくなると十二指腸潰瘍が起こりやすくなります。膵液は1日におよそ1000〜1500mL分泌されています。
膵液にはタンパク質分解酵素、炭水化物分解酵素、脂肪分解酵素などが含まれており、食べ物の消化に重要な役割を果たしています。このうち、タンパク質分解酵素は膵臓の中ではまだ消化能力を持たず不活性状態となっており、十二指腸に分泌されてから活性化して消化能力を持つようになります。
これは膵臓自身がタンパク質でできているためで、膵臓自身が消化されないようになっています。この順番が何らかの原因でうまくいかず、膵臓の中でタンパク質分解酵素が活性化してしまうと、急性膵炎が起こってしまいます。
膵臓の働きA 内分泌機能
膵臓のもう1つの重要な働きが、血糖値を調節するホルモンを分泌する事です。膵臓はブドウの房状のものが集まってできていますが、これらは消化酵素である膵液を分泌するための組織が集まっているもので、ホルモンの分泌器官はこれら組織の中に点々と存在しています。
このホルモン分泌器官が点在している光景がまるで海に浮かぶ島に見えることから、発見者の名前を取って「ランゲルハンス島」と呼ばれています。
このランゲルハンス島はすい臓全体で100万個ほどあり、α細胞、β細胞、δ(デルタ)細胞と呼ばれる3種類の細胞が存在しています。これらの細胞はそれぞれ異なったホルモンを分泌しており、α細胞からはグルカゴン、β細胞からはインスリン、δ細胞からはソマトスタチンと呼ばれるホルモンを分泌しています。この中で最も有名なのがインスリンで、名前を聞いた事がある人は多くいると思います。
インスリンは血液中のブドウ糖が効率よくエネルギーとして使われるように、ブドウ糖を細胞に取り込ませる働きがあります。そのため、食後に血糖値が上がると分泌され、血糖値が低くなると分泌が低下します。
このようにして血糖値はほぼ一定に保たれているのですが、糖尿病などによってインスリンの分泌が悪くなると、血糖値は常に高くなるほか、細胞はエネルギーを効率よく使えなくなってしまいます。
インスリンと正反対の働きをするのがα細胞から分泌されるグルカゴンです。グルカゴンは血糖値が低下すると分泌され、血糖値が上昇すると分泌が低下します。ブドウ糖は全身の細胞にとって重要なエネルギー源ですが、特に脳細胞はブドウ糖しかエネルギーとして使うことができず、血糖値の維持は生命に関わる重要なことです。
グルカゴンは血糖値が低くなった際に肝臓に蓄えられているグリコーゲンをブドウ糖に分解し、血糖値を上昇させる働きがあります。
このように重要なホルモン分泌を行っている膵臓ですが、慢性膵炎や膵臓癌などによって膵臓組織がダメージを受けると、ホルモン分泌が正常に行えなくなり、体に異常をきたすようになります。なかでもインスリンの分泌が低下すると、糖尿病を引き起こしてしまいます。
食生活に問題がないのに糖尿病を発症したり、軽度の糖尿病が突然悪化した場合などは、膵臓の何らかの異常が考えられます。膵臓癌は初期症状が乏しく発見しにくい癌の1つですので、このような血糖値の異常が見られた場合は膵臓癌を疑って検査を受けるようにしましょう。
膵臓の働きは、消化管から分泌されるホルモンと神経によってコントロールされています。胃で分解された食物が十二指腸に送られてくると、食物に含まれるアミノ酸や脂肪酸の作用で粘膜からコレシストキニンというホルモンが分泌されます。
このコレシストキニンは神経を介して膵臓に働きかけ、食物の消化に必要な消化液を分泌させるほか、胆嚢にも働きかけて胆汁を分泌させ、脂肪分の消化・吸収を助ける働きをします。
また、強酸である胃酸が十二指腸に入ると、十二指腸の粘膜からセクレチンというホルモンが分泌され、膵臓に働きかけて胃酸を中和するアルカリ性の膵液を分泌させます。