膵臓癌は早期発見が非常に難しい癌であり、多くの場合、治療が困難な進行癌の状態で発見されます。そのため、膵臓癌は他の癌に比べて死亡率が高く、膵臓癌による死亡者数も年々増加傾向にあります。
膵臓癌とは膵臓にできる悪性腫瘍のことです。厚労省が公表した2013年の人口動態統計によると、がんの総死亡者数は36万4872人であり、死因別の死亡率は年々確実に増加の一途をたどり、昭和56年以降死因順位の1位となっています。
膵臓癌の死亡者数も年々確実に増加しており、臓器別がん死亡数では、男女全体で肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位となっています。男女別では、男性が第5位、女性が第4位で、男女差はあまりないといえます。2013年の膵臓癌による死亡者数は3万672人でした。
膵臓癌は罹患者数(膵臓癌になった人の数)と死亡者数(膵臓癌で死亡した人の数)がほぼ同数である事から、発見後の治療が非常に難しい癌であるといえます。
では、日本人が年々膵臓癌になりやすくなっているかというと、決してそうではありません。病気のなりやすさをみる「罹患率」を年齢別に比較すると、罹患率は横ばいであり、日本人が膵臓癌になりやすくなったわけではない事がわかります。
膵臓癌は40歳を超えると急激に患者数が増加するため、日本の高齢化が進んだことで、膵臓癌になりやすい年齢層が増えたことが膵臓癌の死亡者数増加につながっていると考えられます。
膵臓はお腹の奥深くにあることや、膵臓癌の初期症状があまり見られないことが発見を遅らせており、発見された時点ですでに進行癌(ステージ4)であることが多々あります。実際、患者さんの多くが発見から2年以内に亡くなっています。
しかし、最近ではCTやMRIなどの画像診断技術が格段に向上しており、膵臓癌の検査で2cm以内の小さな癌も発見できるようになってきました。さらに治療方法も日々進歩しており、日本膵臓学会より診療ガイドラインが発表されるなど、医学的根拠に基づいた診断や治療が行われるようになっています。
膵臓は膵頭部、膵体部、膵尾部に分けられますが、膵臓癌も発生する部位によって、膵頭部癌、膵体部癌、膵尾部癌に分類されます。このうち、膵臓癌の中で最も発生しやすいのが膵頭部癌で、全体の60%を占めています。次いで膵体部癌が30%、膵尾部癌が10%となっています。
さらに膵臓組織の中でも、膵臓の中を通っている膵管に発生しやすいという特徴があり、膵管の上皮に存在する腺細胞で異常をきたした部位から発生すると考えられています。この膵管がんは膵臓癌の約95%を占めており、膵臓の実質である腺房細胞由来の癌は3〜5%にすぎません。
また、膵管がんには管状腺がん、腺扁平上皮がん、乳頭腺がん、粘液がん、退形成がんなど様々な種類がありますが、管状腺がんが膵管がんの大多数を占めています。
膵臓癌には浸潤性膵管がんや膵神経内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液嚢胞性腫瘍などに分類されますが、一般的に膵臓癌というと全体の約9割を占める「浸潤性膵管がん」を指します。浸潤性とは臓器の最も表面にある上皮細胞にできたがんが、臓器の実質細胞(ホルモンなどを分泌する細胞)まで広がった状態をいいます。
胃がんや大腸がんなども上皮細胞に癌ができやすいのですが、これらの臓器には上皮細胞の下に粘膜下層や筋層があるため、癌の進行に時間がかかります。しかし、膵管には上皮細胞の下に癌の進行を防ぐ組織がないため、すぐに癌が浸潤してしまいます。
さらに、膵臓の周りには太い血管やリンパ節が存在しているため、これらに癌が浸潤することで全身に癌が転移しやすくなります。このように、癌が周囲のリンパ節や隣接する組織にまで広がった状態の癌を「進行がん」と呼びます。
膵臓癌はリンパ管や静脈、神経周辺への浸潤が起きやすく、リンパ節転移も高い確率で認められるため、膵臓癌は発見された段階ですでに進行がん(ステージ4)であることがほとんどです。
そのため、膵臓癌は胃がんや大腸がんなどに比べて切除できる率が少なく、生存率も低くなってしまいます。