膵臓癌の治療において、抗がん剤治療は大きな役割を担っています。抗がん剤治療で完治を目指すことは困難ですが、癌を小さくする、進行を遅らせる、痛みを軽減するなどの効果が期待できます。抗がん剤治療はどのように進めるのでしょうか?
1957年にフルオロウラシル(商品名:5-FU)が開発され、膵臓癌の抗がん剤治療に用いられるようになりました。それから40年後の1997年にゲムシタビン(商品名:ジェムザール)が開発され、2001年に承認されて以来、抗がん剤による治療成績が大きく向上しました。
ゲムシタビンは従来の抗がん剤に比べて副作用が少なく、点滴投与であっても入院ではなく外来で治療が受けられるのもメリットの1つです。
さらに内服薬であるS-1(商品名:TS-1)が開発され、ゲムシタビンに劣らない治療成績が確認されました。またゲムシタビンにエルロチニブ(商品名:タルセバ)を併用する治療法も開発されました。
近年、新たな治療法として注目されているのが、複数の抗がん剤を組み合わせて投与する多剤併用療法で、FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル(商品名:アブラキサン)併用療法が挙げられます。
FOLFIRINOX療法は2013年に、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法は2014年に保険適用の承認がされました。
現在、膵臓癌の抗がん剤治療を進める上で考えられる選択肢は、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法、ゲムシタビン+エルロチニブ併用療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法、FOLFIRINOX療法の5つが挙げられ、患者の状態や病状に応じて投与方法が選択されます。
FOLFIRINOX療法は2013年に保険承認された多剤併用療法であり、オキサリプラチン(商品名:エルプラット)、イリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)、フルオロウラシル(商品名:5-FU)、ホリナートカルシウム(商品名:ロイコボリン)という4つの抗がん剤を投与する治療法です。
また、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法はその名の通り、ゲムシタビンとナブパクリタキセル(商品名:アブラキサン)を併用して投与する治療法です。
FOLFIRINOX療法もゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法も、従来のゲムシタビン単独療法よりも生存期間を有意に延長することが国内外の臨床試験で認められています。
ただし、抗がん剤を複数種類使用するために単剤療法よりも副作用が強く出やすいのも特徴で、高齢で体力がなかったり、全身状態があまりよくない患者にはゲムシタビンやS-1単独療法が選択されます。
FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法のどちらを選択するかは、その効果や副作用について患者と話し合い、最終的には患者自身が決める事になります。
抗がん剤の投与は一定量を一定間隔で投与し、治療効果を判断していきます。投与間隔は1週間をベースとし、数週間の投与と休薬を1クールと言います。1クールにおける投与間隔や休薬期間は使用する薬剤によって異なります。
ゲムシタビンの標準的な投与方法
ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)の投与は4週間を1クールとし、1日目、8日目、15日目に1回あたり1000mg/m2を30分かけて点滴し、22日目は休薬します。明らかな症状の悪化や継続することが困難な副作用がない限り、2クール目、3クール目と投与を続けます。
S-1の標準的な投与方法
S-1(商品名:TS-1)の投与は6週間を1クールとし、朝食後および夕食後の1日2回の経口投与を4週間続け、その後2週間休薬します。明らかな症状の悪化や継続することが困難な副作用がない限り、2クール目、3クール目と投与を続けます。
FOLFIRINOX療法の投与方法
FOLFIRINOX療法の投与法は、一日目にオキサリプラチン(商品名:エルプラット)85mg/m2を120分かけて静脈内投与し、続いてレボホリナート(商品名:ロイコボリン)200mg/m2、イリノテカン(商品名:カンプト/トポテシン)180mg/m2を90分かけて静脈内投与し、それからフルオロウラシル(商品名:5-FU)400mg/m2を静注する。それから、フルオロウラシル2400mg/m2を46時間かけて持続点滴する。これを2週間ごとに繰り返し行います。
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の投与法は、一日目にゲムシタビン(商品名:ジェムザール)1000mg/m2、ナブパクリタキセル(商品名:アブラキサン)125mg/m2を90分程度かけて点滴します。2週目、3週目も同様に点滴し、4週目は休む。これを1コースとして治療を繰り返します。
@ 抗がん剤治療の方針判断
まずは患者さんの全身状態を評価し、体力面も含めて抗がん剤治療が行えるかどうか、どの抗がん剤を投与するかを判断します。医師から投与スケジュールや副作用のリスクについて説明を受け、医師と患者さんで治療法を決めます。
A 抗がん剤の投与開始
治療方針が決まれば抗がん剤の投与が始まります。抗がん剤は内服と点滴のものがあるため、投与する薬剤によって外来か入院で行うことになります。ただし、抗がん剤は副作用を伴うため、初回投与だけは入院で行い、問題なければ外来に切り替える場合もあります。また、入院での投与も副作用の程度が許容範囲内であれば、入院期間は数日間となります。
B 治療効果の確認
副作用による投与中断がなく、数クールの投与を行ったら、抗がん剤がどれだけ効果があったか評価を行います。病状やがんの状態によって治療効果には差が現れるため、投与後の治療効果を評価することはとても大切なことです。評価は腫瘍マーカーの測定や、CT検査による腫瘍の大きさの比較を行います。基本的には腫瘍が治療前よりも増大したり、新たな腫瘍が発生していなければ治療効果があったと判定します。
C 投与の継続または変更
治療効果が認められ、副作用も許容範囲内であれば、抗がん剤の投与は継続します。治療効果は認められるが、副作用が許容範囲を超える場合は、いったん休薬したり、投与量を減らして継続することがあります。治療効果が確認できない場合は、投与する薬剤の変更を検討することになります。