膵臓癌が進行するとお腹の中に腹水と呼ばれる水がたまるようになります。健康な人でも少量の腹水は存在しますが、進行した膵臓癌では何リットルも発生し、体に悪影響を及ぼすようになります。
腹水とは、お腹の中に水がたまってしまう症状をいいます。お腹の中といっても、胃や腸の中ではありません。胃や腸は腹膜と呼ばれる膜に覆われており、臓器の間にはわずかな隙間があります。この隙間を腹腔と呼びます。
通常、腹腔の中には20〜50mLの水が存在しますが、なんらかの原因で血管や臓器から水分が漏れ出し、腹腔の中にたまることで腹水が発生します。
わずかな腹水であれば自覚症状はありませんが、何リットルもたまってしまうと内臓を圧迫してしまうため、痛みや食欲不振が起こるようになります。
腹水は癌に限らず様々な病気で起こりますが、原因は大きく分けて2種類あります。1つは血液中のアルブミン(タンパク質)不足や、腎機能の低下によって血管内の水分が溢れ出して腹水となる「非炎症性腹水」、もう1つは炎症によって血管内の水分が溢れ出して腹水となる「炎症性腹水」があります。
膵臓癌による腹水の原因は炎症性も非炎症性も両方考えられます。末期がんになると内臓が癌性炎症を起こすようになり、炎症を起こしている臓器や血管から水分が漏れ出るようになります。
また、膵臓癌は肝臓に転移しやすいため、アルブミンを生成している肝機能が低下すると血液中のアルブミン量も低下し、血液の浸透圧が低下することで水分が血管外に漏出することになります。
腹水の原因が血液中のアルブミン量の低下であればアルブミン製剤を静注することで改善が期待できますが、末期がんの場合は癌性炎症による原因もあるため、アルブミンを静注してもすぐ元通りに戻ってしまう事も少なくありません。
また、食事による塩分摂取量を制限したり、利尿剤によって体内の水分排泄を促す治療を行うこともあります。このほか、最近では「腹水ろ過濃縮再静注法(通称CART)」と呼ばれる治療が行われることもあります。
これは腹水を腹腔から抜いたのち、腹水に含まれるたんぱく質など必要な成分だけを体内に戻す治療法です。このCARTと呼ばれる治療法は、塩分制限や利尿薬による治療を行っても腹水が改善しない場合に健康保険の適用となります。
膵臓癌で腹水が現れるのは一般的に末期のステージ4です。ステージ4は遠隔転移も起こしているため、手術による治療の対象とはなりません。ステージ4aの5年生存率は11%、ステージ4bの5年生存率は3%とされており、腹水が出てからの予後は厳しいものとなります。
ただし、腹水をそのままにしておくことは患者にとって非常に苦痛であり、QOLが著しく低下します。末期がんの場合は腹水を抜いてもすぐにたまってしまうため、モルヒネなどの痛み止めを使って腹部の苦痛を軽減させることも行います。